さくらのはじめまして


もうすぐ12月になる。葉は、すでにほとんどが夕焼けの色をしていた。
並木の沿った、緋の色を吸ったじゅうたんの上を歩いて辿り着いたのは大きなマンション。
小狼君の部屋は四階の端の方にある部屋…だったよね?確か…401号室…
ドキドキ ドキドキ ドキドキドキ ドキドキドキ…
「なんか、緊張するよぅ〜」
高まる鼓動を胸にさくらは震える指でゆっくりとチャイムを鳴らした。

ピンポーン

小狼は頬が熱くなるのを感じながら、ドアをゆっくりと開けた。
「ちわ〜ッス、宅急便で〜す」
「え?」
目の前に立っているのはどう見ても配達屋の人。
小狼は落胆しながらも、手渡された伝票に判を押した。
どうやら、香港にある実家からのようだ。



ドアが開く。さくらはこぶしを小さく握りしめながら立っていた。
「誰だ?」
「ほえ?えっと、は、はじめまして。木之本 桜です」
さくらは、ドアを開けた自分と同じくらいの女の子に戸惑いながらも、あいさつをした。
「?…何の用だ?」
「あ、あの小狼君に会いに来ました」
「しゃ、小狼君?そんな人はここにはいないぞ」



…やっぱり遅い。
小狼は少し外の様子を見ようと、ソファーから立ち上がり、玄関へと向かう。



「春香、誰か来たのですか?」
部屋の奥から、大人の女性の声が聞こえてきた。
「母様の知っている人か?」
さくらは何がどうなっているのかさっぱり分からず、困惑しているばかりだ。
そのとき、背後からさくらの知っている声がした。
「さくら?!さくら!!何やってんだ?」
振り返ると、ちょうど反対側の部屋から小狼が出てきた。
「ほぇ?小狼君?どうしてそっちのドアから出てきたの?」
…やっぱり
小狼は深いため息をつくと、一言、こう叫んだ。
「おれの部屋はこっちだ!!」
「ほえぇぇ?!あっ、えとっ!ごっ、ごめんなさい!!」
さくらは、間違えて訪ねてしまった部屋の住人にペコリと頭を下げると、小狼の元へと駆けて行った。

「ごめんなさい」
「別に。それにしても401号室と407号室を間違えるなんて…」
「だ、だって!これから小狼君に会えるって思ったら、すっごく頭の中が真っ白になっちゃたんだもん」
さくらはそのまま俯いてしまった。
「気にするな。初めて来たんだから仕方ないさ」
しかし、さくらの不意の発言にはいつもドキドキしてしまう。さくらは分かっているのだろうか?
「寒かっただろ?早く入れ」
「うん!」
元気に笑うさくら。
いつもの笑顔に戻ったさくらに、小狼は少し安心した。
「小狼君、それ、なあに?」
「ああ、実家から点心が届いたんだ。さくらも食べるか?」
「うん!」
さくらと小狼の部屋に上がると、わぁ!と声を漏らした。
「広いね!」
「・・・・・そうか?」
小狼は荷物の包みを開けてお皿に移して食べる準備をし始める。
「わたしもお手伝いするよ!」
「じゃあ、そこにポットと紅茶の葉があるから、それで、お茶を入れてくれ」
「うん!わかった!」
さくらはポットからお湯を出して、紅茶の準備をし始める。
視線をポットに向けたままさくらはなんとなく聞いてみた。
「小狼君」
「なんだ?」
「小狼君はどうしてこのマンションを選んだの?」
「え?」
「だって、ほかにもあったでしょ?わたし、この部屋好きだけど、ちょっと気になっちゃって」
「……」
確かにあった、と言えばあった。
小狼は返事に困った。
「こ、ここってさ、その、日当たりがすごくよか、たから…さ…」
小狼は苦し紛れにそう答えた。
「そっか!このお部屋ぽかぽかしてるもんね」
「ああ」
小狼にはどうしても言えなかった。
あの並木の木は桜の木。そして401号室。さくらの誕生日は4月1日。
そう、401号室はさくらの誕生日の数字だ。
だから、どうしても言えなかったのだ。そういう理由でこのマンションにしただなんて―――。
「うわぁ!この点心おいしいね!!」
もう、先ほどの疑問のことなど気にはしていないようで、一人焦っていた小狼もその笑顔に
つられて一緒に笑顔になる。
ずっとずっと、こうしていられたら…と二人は心の中で呟いた。
お互いに、同じことを祈ったとも知らずに――――。







“最初に載せるお話は何かあいさつしてた方がいいのかな?”と考え、旧サイトでは一番最初にアップしたお話でしたが、このサイトではCLAMPメインサイトいいつつ、オリジナル小説を先にアップしてしまいました;
果たして、こんなんでいいのでしょうか?
実は、さくらが間違えて訪ねてしまった部屋の住人というのは、春香と春香の母様のコトなの でした。
春香の年齢設定は、できればさくらちゃんと同じがいいなあ、というくらいの年齢です(笑)

管理人:咲良 ひとむより
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