あなたの気配


毬江が、図書館からの帰り道、バス停でバスを待っていると、携帯が震えた。
「? 小牧さん!」
毬江は、表示盤に映った名前を見て叫ぶと、すぐにメールを開いた。
「やった! 来週の日曜日はお休みなのね!」
小牧からの嬉しい知らせに、思わず声を上げる。
そのとき。
「ひゃっ!」
いきなり頬に冷たくて固い感触がして、びっくりして振り返ると、郁が立っていた。
「い、郁さん! びっくりしましたよ」
「ごめんごめん」
郁は笑顔で、手に持っていた缶を毬江に手渡した。
「いいんですか?」
「うん。今日、案内に困ってたら手伝ってくれたでしょう? だからお礼!」
今日、郁が利用者からのデファレンスに困っていると、毬江が声を掛けてきて、それなら分か る、と、助言をしてくれたのだ。
「あれは、たまたま私がよく行くコーナーだったから」
「それでも助かったから。ありがとう」
「はい、それじゃあミルクティー、ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げると、タイミングよくバスが来た。
「それでは」
「うん、バイバイ」
お互いに手を振り、毬江はバスに乗り込んだ。



「小牧教官! 毬江ちゃんに無事、追いつきました!」
郁は、結果報告をしながら、小牧教官に駆けてきた。
「ええっ、本当に追いついたの? さすが笠原さん」
小牧は笑いを堪えつつ、感嘆した。
休憩中、デファレンスで毬江ちゃんに助けてもらったからお礼がしたいと郁に言われ、今からバス停まで走れば間に合うよ、と答えたのは確かに小牧だったが、本当に間に合うとは思わなかった。もしくはバスが運よく少し遅れたのか。
「あ、でもお茶の缶ほっぺに当てたら、思ったより驚かれちゃいました」
苦笑しつつ頭を掻く郁。
「あはは、そうなんだ」
そう答えながらも小牧は、毬江ちゃんらしくないなぁと首を捻った。




次の週の日曜日。
地元の噴水のある公園で待ち合わせをしていた毬江は、近くにあったベンチに座った。
午前中のためか、人は少ない。
目の前にある噴水の、水の流れをぼーっと眺めていると、毬江はなんとなく気配を感じて、後ろを振り向いた。
「…小牧さん?」
後ろには小牧が、アイスコーヒーの缶を持って微笑んでいた。
「あ、やっぱり小牧さん」
毬江も安心したように笑みを浮かべた。
「う〜ん、やっぱり俺じゃ駄目なんだねー」
「? 何がですか?」
「毬江ちゃんをびっくりさせること」
そこで毬江も、どうして小牧がそこに立っているのかが分かったようだ。
「もうっ、郁さんの真似しないで下さい!」
「真似できないよ、だって毬江ちゃんにすぐにバレちゃったじゃない」
少し困ったような小牧の、いつもは見ない表情に、毬江はおもしろくて胸がくすぐったくなった。
「ふふっ、気配が分かるからですよ」
「じゃあ、笠原さんは気配隠すの上手いんだ」
「違いますよ」
毬江はちょっと恥ずかしそうに俯いた。
「小牧さんの気配は特別です。それにあのときは、郁さんに気づかなかったのは…小牧さんからのメールに気を取られてて…」
そうして、なんだか上を向けずにいると、顔の近くに気配を感じて、とっさに顔を上げた。
瞬間、頬に温かくて柔らかな感触がした。
「こ、小牧さんっ!」
小牧がキスをしたのだとすぐに分かった。
「びっくりした?」
「したに決まってるじゃないですか!」
毬江は、顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった。
「ははっ、良かった。俺でも毬江ちゃんを驚かせられるんだね」
「こ、こんなの小牧さんだけですっ!」
赤い顔を見られるのが恥ずかしくて、手で顔を隠しながら呟いた。
「毬江ちゃん、かわいい」
ぎゅっと、毬江はそのまま後ろから抱きしめられた。
「〜〜〜ずるいです! 小牧さんばかりっ!」
「そんなことないよ? 俺だって毬江ちゃんの言葉に限界なんだけど?」
そして今度こそ、唇にキスを落とした。



end.






ごめんなさい。書いていて、自分が限界を迎えました。
いや、いきなり小毬のお話が降ってきたので、勢いで書いてみたんですけど…。
こんなに気恥ずかしい小牧にするつもりじゃなかったんですけど!
人気(ひとけ)の少ない公園だからって、いちゃいちゃするなんて、小牧教官も相当毬江ちゃんにドキドキさせられちゃってたんですねー。
やっぱり図書館戦争は、私の予想斜め上を突っ走ってくれます(笑)
私の中では結構甘いつもりだったんですけど、皆様はいかがだったでしょうか?
全然甘くないよ!なんて方は、諦めて下さいね(にこっ)←
甘いの大好きですが、私の技量では、これが限界値です(汗)

管理人:咲良 ひとむより
In this site.2010.01.10.up.