そうだ、会いに行こう。


今日は、晴れ。
優しい風の吹く、朝――。
小狼は、片手に紅茶のカップをもって、朝食をとっていた。
いつもよりも、ゆっくりとした食事。
いつもよりも、穏やかな時間。
「小狼さま、おはようございます」
「おはよう、偉」
「今日は・・・」
トゥルルルルル トゥルルルルル…
そんな、ゆったりとした時間に、電話のコール音が響いた。
「失礼します」
偉は、一礼をすると、電話のところに向かった。
小狼はふと、窓の外を見た。
今日は、気持ちのいい晴れ。
それなのに、小狼はなんだかいやな予感がした。
「さくらはどうしてるんだろう…」
と、そこへ偉が戻ってきた。
「小狼さま!小狼さま!」
「なんだ、偉」
「日本にいるお友達の方からお電話です!」
「何をそんなにあせっているんだ?」
「いえ…先方が、ひどく緊迫した様子でしたので」
それを聞いた小狼は、バッと身を起こすと、電話のもとへと駆けていった。
「さくら!なにかあったのか?!」
「小僧!大変や!!」
「ケルベロスか、なにがあったんだ?まさか、さくらになにか!?」
「そのまさかや!さくらが、おまえに会うとかなんとか言って、ひとりで香港に行ってし もうたんや!」
「…え?」
「せやから、さくらをさがしてほしいんや!」
「……」
「おい、聞いとんのか!?」
「あ、ああ、わかった」
ケルベロスの言うことは、なにかの冗談かと思った。
でも、あのようすは、きっと嘘じゃない。
「さくら…」
小狼は、いつのまにか走りだしていた。
とにかく、さくらのもとへ―――!!
とりあえず、海へとむかう。李家は丘の上だが、電車に乗れば、少しは早く港へと行ける 。
電車に乗った小狼は、なかなか進まない電車にいらいらしていたが、ふと、偉に車で港に 連れていってもらうほうが、もっと早かったことに気づいた。そして、そんなことに気づ きもしなかった自分に苦笑した。

たったひとり。
たったひとり、その人だと、自分は弱くなってしまう。我をも忘れてしまう。
たったひとり。
さくらのためなら―――――。

ようやく港に着いた小狼は、日本へとつながる空を見上げた。
しかし、さくらの姿はない。
あたりまえだ。飛行機でさえ、何時間もかかるというのに、さくら一人がそんなに早く着 くはずがないからだ。それでも、まだかまだかと待っている自分がいる。
待つということが、こんなにも、不安で、怖くて、心が痛くなることだなんて思わなかっ た。

早く、あいたい。
さくら…。

小狼は、日本行きの船を探し、それに乗り込んだ。
そして、甲板に立って、空に目を走らせる。
まだ見えない。
まだ見えない。
まだ、見えない。

大丈夫か、さくら?
元気にしているか?
何か、困ったことはないか?
おれも、お前に…さくらに、あいたい。
たぶん、お前以上に、あいたい。

「あっ!!」
そのとき、見つけた。
あの、大きなつばさ。童話に出てくるような魔女はとうてい持っていないであろう、ピンク色の、女の子らしい杖。愛しい姿。
「さくらっ!!」
「小狼くん!?」
ふわっと、甲板に降り立ったさくらは、不思議そうに首をかしげる。
「小狼くん、どうしてこんなとこ…」
どうしてこんなところにいるの?って聞きたかったのに、続きのことばが出ない。
たぶん、小狼くんが私をぎゅって抱きしめてくれているから。
「心配したんだぞ、さくら!」
「ご…ごめんなさいっ!」
「……」
「……」
「……」
「…小狼くん?」
さっきから、ぎゅって抱きしめてくれているだけで、何も言わない。
ズルッ
「ほえ?」
小狼は固く瞳を閉じていた。
「ほえええ?!小狼くん!?」



「…ん…?」
「小狼くん!!よかった〜。目を覚まさなかったら、どうしようかと思ったよ」
「あれ、さくら?」
「小狼くん、疲れていたんだね…。気づかなくてごめんなさい」
「いや、それより、さくらが無事でよかった」
はっと瞳を見開くさくらは、そっと目を伏せた。
「…ごめんなさい、わたし、小狼くんにいっぱいいっぱい迷惑かけちゃったんだね」
今にも泣きそうなさくらに、小狼は、あわてて言った。

「迷惑じゃない。しっ、心配しただけだ。それに、ケルベロスから電話があったしな」
「えっ、ケロちゃんが!?」
「ああ、ひどく心配してたぞ」
「わ、わたし…ほんとうに、ほんとうにごめんなさい。みんな心配させちゃって…」
視界がゆらぐ。涙が今にもあふれだしそう。
「ち、ちがう。おれも、ケルベロスも、さくらが好きだから心配なんだ。だから、泣くな」
「…うん…!」
「そういえば、ここは…?」
「小狼さまの家でございます」
「えっ、偉?!」
「さくらさまが、港まで運んでくださったので、港で待っていたわたくしが、さくらさまから小狼さまをうけとって、家まで運ばせていただきました」
「い、いつからここに?」
「はい、つい今しがたでございますよ、小狼さま」
「そ、そうか」
よかった、聞かれていない。
さくらに言ったこと、さくら以外の人には聞かれてない。
さくらにさえ、聞かれるのは嫌だけど。
ほかの人に聞かれるのは、もっと…恥ずかしいから…。








さくらに言ったこと、というのは、「心配したんだぞ、さくら!」という一言です。
恥ずかしいことを言ったあと、顔を真っ赤にする小狼は見ていて楽しいのでv(笑)
それから、「風花」を使って水上を歩いて探さなかったのは、速さの問題もありますが、人に見られるといけないので(苦笑)
電車の中ではたと気がついた小狼は、使おうと思っていた「風花」をやめたんですね…。
あとがき、という名の言い訳+補完になってしまいましたね、すみません;
精進します!!

管理人:咲良 ひとむより
In this site.2008.10.29.up.