時折、なびく 第12話 〜新学年の日〜


クラス分け発表。
わたしは3年生になった。
始業式とHRが終わり、今日の学校はそれでおしまい。午前中で終わるのは嬉しい。
午後から部活開始なので、わたしはのんちゃんを家に呼んで、お昼を食べつつおしゃべり。
ちなみにわたしはすでに体操着に着替え済みである。
「はる、クラス離れちゃったね」
「うん。いいなー、のんちゃん。鳴村とすなと一緒で」
昨夜、すなと明日から3年生だね、って走りながら話していたケド、クラス一緒だといいね、とは話さなかったな、そういえば。
「えーでも、はるを介して、だったから、同じクラスになってもそこまで喋んないと思うな」
「あー。や、でもいいじゃん。私は、夏清さんと一緒。あと相模ちゃんもいるよ」
「おーはや、ひずとも離れたね」
「うん。正直、二人と離れられて嬉しい。悲しいケド…」
「仕方ないよ」
「あ、担任の先生、また谷之 「おお、よかったね」
「うん。また苗字訂正するの面倒くさいしね!」
「ああ、ホラン!」
二人は顔を見合わせて、ぷっ、と吹き出して笑った。



「いってきまーす」
「ご馳走様でした、お邪魔しましたー!」
バッシュとドリンク、タオルの入った鞄を持ち、靴を履いてのんちゃんと一緒に家を出る。
「お昼ありがとう」
「ううん。次はまたのんちゃん家に遊びに行くね!」
「うん。テストの時に来るときはちゃんと勉強してね」
「えへへ、うん。頑張ってはみる」
「はいはい。部活頑張ってね」
「あと半年だしね!ありがと、頑張る!じゃあね!」
「ばいばい、また明日ね〜」
家の前で別れ、のんちゃんは帰路へ、わたしは部活へ。
新学期が、始まる。



朝ちゃんっ!」
「やほ〜」
「今日から3年生だねっ」
「でも部活でだとあんまり変わらないね」
「そだね。でもちょっと寂しく感じるかも」
「カウントダウンあるしね」
「でも、春休み中ずっと練習だったし、今日も学校ちょっとしか教室いなかったから、まだ春休みの続きみたいな気持ちもあるなぁ」
「分かるー!」
この会話の間中、わたしは体育館のゴールを下げるためにチェーンを回転させたときについたサビと油のコンボを石鹸を駆使して必死に落としていた。
「もうそろそろ後輩にやらせればいいのに」
「いやいや、わたしより先に来てるときは率先してやってくれるし、わたしがやってたら、替わりますって言いに来てくれるよ」
蛇口を捻って水を止め、手を振りながら笑う。
「なんか癖なんだよ、来てすぐにゴール下げるの。練習終わったらゴール上げるの。後輩が準備しなきゃいけない雰囲気はあるケド、先輩が準備しちゃいけないっていう部則があるワケじゃないし。それに後輩が全部やってくれるの申し訳なくって」
手を拭いたタオルをドリンク置き場に置いて、ボールを手に取った。
「ボールが先輩優先なのは嬉しいし、譲らないケドね」
「いやまあそうだけど。…そうだね、後輩が、じゃなくて手近にいる人がさっさと準備しちゃうのが一番早いしね」
そうそう、とわたしは大仰に縦に首を振ってみせ、朝ちゃんと一緒に吹き出した。
後輩を見渡しても平常営業である。
でもきっと。
後輩も、内心はみんなそわそわしているんだろうなあ。
わたしは何の気なしに、壁際のではなく、オールコート用のゴールでシュート練習を始めた。
オールコート用のゴールは3年生優先。ハーフコート用の壁際のゴールの片方は2年、もう片方は1年用。
今はまだ1年生がいないので、2年が広がって使っている。先輩が引退してからはずっとそうだ。
オールコート用は練習が終わったら天井の方に巻き上げてしまわなければいけないゴールで、つまり、さっきわたしが下げたゴール。
もちろんメニューが始まったら学年関係なく練習で使うケド、練習が始まるまでは個々にシュート練習する。そのときに使うのはやっぱり3年なので。やっぱり後輩に下げさせるのに気が引ける。
このゴールを使えるという高揚感、優越感。先輩。



今は塾の方が、部活よりも3年を意識する場所である気がする。
「今日から3年生だ。高校受験まではもう1年もないし、内申も加味されるんだから、いままでより真面目に授業受けろよ」
それを挨拶の言葉のようにして、先生は授業を始めた。
3年生になったのだから、高校受験を意識しなさいとは言われるケド、でももう塾も3年目に入るワケだし、いままでも言われてきていたし、先生も塾生もいきなり変わるワケではないので、突然意識できるモノではないかな…。
わたしは、自分の席の隣の壁に掲示されている、塾内であった春期講習のまとめテスト結果のランキングの貼り紙を見つめた。
きっといままでよりもっともっと意識してこの貼り紙を見るコトになるのだろう。



新学期が始まって3日目。2年生と3年生しかいない学校に、今日から新1年生が加わる
今日の朝練の時間は、練習ではなく式場設営の手伝いだった。
バスケ部を始め、バレー部やバトミントン部など、ふだん体育館を使う運動部が集まって、体育館の床を拭いてシートを敷き、椅子を並べたり、体育館の壁に紅白の垂幕を画鋲で固定したり。
そこで一番そわそわしていたのは、やっぱり今年2年生の後輩達だった。
はじめて下の学年を迎えて、自分たちが先輩になるのだから。
一番そわそわが大きくなるのは、部活見学と体験入部が始まるときなんだろなあ。



それから2日後の部活見学開始日。
1年生が壁に凭れて練習を見学している様子に、少しいらいらした気持ちになるのもやっぱり2年生なのだ。
運動部は部則も上下関係も厳しいから特に。
わたしたち3年生は、何も気にしていないフリをしているけれど、本当は2年生の、見学の1年生に対する不満そうな顔がかわいくて仕方ない。
「2年!見学は気にしなくていいからね」と、とりあえずとばかりに練習前に女子の部長の夏清さんが一言後輩の女子に言っていたけれども。
わたしがまたゴールおろしの後の手洗いをしていると、朝ちゃんが寄ってきた。
「めっちゃ気にしてるねー」
「気持ちは分かるケドも」
「懐かしいような微笑ましいような」
「かわいいよねえ」
まだ入るって決まったワケじゃない外部の人だから、部則とか関係ないのだし、中学に入ったばかりでいきなり上下関係をきちんと理解して、そういう態度を取らないようにするとか、無理な話なのだ。
だけど2年生は、突然現れた後輩は、今の自分たちのようであるべきと比較しちゃうからそういう気持ちが生まれちゃうよね、分かるよ。後輩ちゃん顔に出てるよ
だからといって、後輩みんながそうというワケでもないけれど。
ミニバスからやってる子はやっぱり、見学者には慣れてるのかな?
ストレッチとハンドリング、パス練まではメニューが決まっているのでいつも通り。
このあとのメニューは女子男子それぞれの部長が顧問の先生に聞いてメモを見ながら行う。
今日はパスからのランシューのあと、ハーフコートでの4対4があったので、これは先生がしっかり見学者を意識したメニューなのだろう。
ゲームに近い練習ができるというだけで、みんなのやる気も変わるのだからすごい。
みんな、いつもよりも多く雑巾を踏んでいる。わたしも2,3度バッシュで雑巾を踏んで、すべり止めをした。
わたしたち3年生の背中も、2年生の背中も、いろんな意味を持ってしゃんと伸びていると思った。

3年生にはもう、カウントダウンが始まっている。






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