時折、なびく 第11話 〜送る会の日〜


発表祭が終われば、今年度もそろそろ終わり。
次は卒業生を送る会。
委員会の決定により、校歌と「旅立ちの日に」と「YELL」を歌うことになった。
クラス毎に時間を作って体育館に集まったり、朝の教室で、合唱の練習をしている。
週に一度、放課後、体育館に集まって学年練習。
「先輩、卒業しちゃうんだね」
「部活だけじゃなくて、学校でも会えなくなっちゃうんだね」
今日のお昼休みは、バスケ部の女子で、先輩を送る会の企画を話し合うために集まっている。
わたしと朝ちゃんは、深々と息を吐いて、顔を見合わせた。
「じゃあ、バイキング・風波店でいーい?」
更衣室の真ん中に立つ夏清の声に、女子部員みんなで賛成の挙手と声をあげる。
「今度先輩に知らせて、予定決めます。あとで人数と費用を計算して、お金を徴収するから、考えておいて下さい。先輩の分は割り勘だからね!」
「はーい」
二度目の、賛成の声と挙手。
「それから、フォトアルバムに先輩の写真と、みんなの手紙を1枚ずつ入れるから、写真サイズの紙にメッセージを書いてきて下さい。あとで集めるからねー」
三度目の了解の声で、ついにミーティングはお開きになった。



まだ肌寒い3月。
卒業生を送る会。
送る言葉在校生代表は、隣のクラスの、野球部の子だった。
クラスでいじられつつも、人気のある男子だ。
在校生からの送る歌も、練習の甲斐あって、ヨーロッパの少年合唱団には負けるけれど、1・2年という人数での歌にしてはまとまっていたと思う。
3年生と合わせての全校生徒で歌った校歌は、泣いてしまって震える声とか、鼻をすする音とかが混ざって、それさえ気持ちが高ぶって。
卒業式は、保護者や関係者の出席があるため、体育館の都合で、生徒は2年生だけの出席だから、1年生はこの送る会と、卒業式の後に先輩たちが校門をくぐるのを見るのが、先輩を見れる最後になる。去年のわたしがそうだった。
たとえ1年生でも部活に入っているなら、バスケ部みたいに部活毎にまた集まって、また改めて先輩を送る会があるケド、やはり学校で合える、姿を見れるというのは別モノに感じる。
去年は卒業式に参加できなくて寂しく感じたけれど、いざ出席となるのも、厳粛な場だからと、先生から余計なプレッシャーを掛けられて緊張してしまう。
去年は先輩が見送る席に座って、上の先輩を送ったのだろう。



緊張して椅子に座っている間に、次の日の卒業式は終わった。
ただただ先輩はどこに座っているのか、目を皿にして探したり、卒業証書をもらいに一人ずつ順に舞台に上がる先輩たちを見つめたり。制服の先輩を目に焼き付けられる最後。
先輩はかっこいいなあ。
最後に先輩たちが門をくぐる時、花束を渡した。
卒業式の始まる前から、卒業生揃って胸につけていた花もあってか、ほんとうに花に囲まれたようになる。
女子は女子、男子は男子で集まって囲んでいたので、女子のかたまりから近くの男子の集団の方をちらりと見ると、男子に囲まれた中心に、瑞瀬先輩が見えた。
わたしと同じように、男子のほうをちらちら見ている女子が何人かいるコトに気づいて、それがまたおかしかった。
みんな考えているコトは同じなんだ。見納め。話し収め。
バスケ部での送る会は、男女合同だと人数が多すぎて大変なので、それぞれに分かれて行うからだ。
女子は男子の先輩、男子は女子の先輩を拝めるのはやはり、この校門前までなのだ。
後日バイキングに集まって開いた女子だけでの送る会では、フォトアルバムに収めた、みんなからの寄せコメントをプレゼントしたら、とても喜んでもらえた。
先輩たちのそれぞれの進路をきいたり。
とても遠い学校に行くという先輩もいて驚いた。片道2時間もかかるらしい。それでも行きたいと思った場所なのって、すごいなあ。
バイキングでは、もう、誰も嗚咽を漏らしたりはしなかった。
朝ちゃんは口を大きく開けて笑っていた。この会を笑いながらおおいに楽しんでいた。
会の終わりを感じるころに、涙目になっていた子は数人いて、わたしも夏清さんもそれだった。
でもやっぱり、みんな笑っていた。先輩の門出を祝って。

先輩が引退するときに泣いて、卒業生を送る会で泣いて、卒業式で鼻につんと来て、花束を渡すとき少し声が震えて。
そうして、日を改めてのバスケ部の女子の送る会でもまたしみじみと別れを惜しんで。
先輩の背中は大きくて、きっと越えられないけれど。
わたしは、背中を見てもらえるほどの先輩になれるのかな。

そうしてわたしたちの学年は、3年生になる。






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