時折、なびく 第10話 〜ねぼうの日〜
「…え?」
ハッと目を覚まして時計を見ると、ぴったり朝練の始まる時間だった。
初めての寝坊。
「
美里珍しいね、寝坊だなんて」
「あうう、先輩にもなって遅刻だなんて…」
「まあ、ちょっとくらい誰にだってあるよー」
朝練後、わたしの隣で
朝ちゃんが慰めてくれている。
「アップ終わった直後に来たんだから、メインの練習には間に合ったわけだし。次からまたちゃんと来たら大丈夫だよ」
「うん、ごめんね。気をつけます」
うなだれた猫背のままわたしは制服に着替えた。
体育館に入ったとき、ストレッチとアップが終わって、メイン練習をするトコロだった。
今まで遅刻をしたコトことのなかったわたしを、みんなは風邪で欠席なのだと解釈していたらしい。
同級生の子はみんな目を丸くしてコチラを見てびっくりしていたけれど、すぐにお許しをいたくコトができた。
まだ1回目だからだ。よくはないケド、よかった。次から気をつけなくちゃ。
「…うそ!」
次の日、時計は登校時間10分前を指していた。
慌てて制服に着替えて、どたどた足音を鳴らしながらリビングに入った。
「もう、お母さん起こしてくれたらよかったのに!」
「お姉ちゃんが寝坊だなんて珍しいね」
「うう、
琴里、部屋隣なんだから声掛けてくれたってよかったじゃん〜」
「起きてきたらリビングにいないから、珍しく今日は朝練だったんだなって思ったんだよ」
「うー、なんで昨日に続き…」
肩を落とした。
とにかく、しゃべったりしていたケド、そんな場合ですらない。手は止められない。お弁当箱を鞄に詰め、洗濯で干していた体操着を回収して体操着袋に乱暴につっこむ。
「疲れが溜まってるんじゃないかな?」
「そうかなあ?」
「そうだよ、きっと」
琴里は一人でうんうんと頷いている。
妹は今日は開校記念日だかなんだかで休みらしく、のんびりしている。完全な八つ当たりだと分かっていたケド、とやり場のない気持ちを目覚まし時計とお母さんと琴里に向かって心の中で叫んだ。
まったくもう!
テレビで話すニュースキャスターには目もくれず、左上の隅に表示されている時刻を確認する。
「ぎゃっ!3分前ッ!行ってきます!」
「いってらっしゃーい」
中学までは徒歩25分。走って12分ほど。完全な遅刻だ。
エナメルバッグを腰に回し、肩紐をしっかり引っ張って固定し、走る、走る。
「お、おは…よう、ございます〜!」
新記録。なんと9分で校門を潜った。教室に飛び込む。途端に息が上がる。
「あら、美里さん。おはようございます。遅刻なんて珍しいわね。学校からのプリントがあるから、もらってから席に着いてね」
「は、い…」
まだ朝のホームルーム中だった教室に入り、
純玲先生からプリントを受け取る。
そして、よろよろする身体をなんとか押さえて席に着いた。
ち、遅刻した〜!!
内心頭を抱えつつ、教科書を机に移す。
教室に入った瞬間から、意識が
浩果ちゃんと
皺蒔ちゃんにピリピリと集中している。
きっと、わたしが遅刻したコトについて何か言うに違いない。
二人の視線がわたしを刺している気がして、落ち着かない。
全部全部見られていて、全部悪く言っているんだと思うと、心臓が冷たく大きく動いて怖い。
耳が、二人の言葉だけを拾おうとしている。
周りのクラスの人たちの声さえ、自分のコトとを悪く言われているような気分に捕らわれる。
怖い、こわい。何を言っているの。怖い、こわい。
背中を丸めて、目の前の机板を凝視し、周りに神経を尖らせる。
そのうちやっぱり、二人へと意識が向く。
「重役出勤だって。いいご身分」
「遅刻とかダサっ」
「あの教室に入ってくるときの顔見た?焦りすぎでしょ」
「夜中のえろい番組でも見てたんじゃない?」
「HRも途中で先生止められちゃってかわいそう」
「そうだよ、HR伸びちゃったじゃん。迷惑」
「…、…る、はーるっ!」
「わっ!」
気づくと、目の前にのんちゃんが立っていた。
どうやらずっと、前の席の背もたれを見ていたらしい。
「ぼーっとして、どうしたの。お昼だよ」
「え?ああ、ううん」
「授業中、呼ばれてたの気づかなかったでしょう?」
「へっ?呼ばれてたの?!」
「あー…やっぱり。いや、普通に出席取ってたんだけど、返事してなかったからさー」
「わ…全然気づかなかった」
「はるがぼーっとしているのは前からだけどさ…。ねえ、はる。大丈夫?」
「うん…」
あ、浩果ちゃんがこっち見てる!
「えへへ、琴里曰く疲れてるみたいなんだ。じゃあね!」
「あ、はる…」
誤魔化すように笑い、慌ててお弁当箱を引っ掴んだ。
のんちゃんの声が後ろから聞こえてきたけれど、浩果ちゃんに見られていると意識すると振り向くコトができないまま廊下へ出てしまった。
はあ。なんだかこの前からやけに身体がだるく感じるし、朝はちゃんと起きれないし、そのわりに眠いし、ぼーっとするし…。
なんなんだろう…。
これ以上、何か言われるような弱みを作りたくないのに。どうしてこうなっちゃうんだろう。
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