時折、なびく　第１話　〜土曜日の日〜


ピピ―――――ッ
また、声を出すことしかできなかった。
「女子ー！次、男子だから、応援だよー！！！」
女子の部長さんが叫ぶ。
…あっ、やっぱスタメンじゃないな。あいつ。わたしは隣のコートですでに始まっている男子の試合に目を向けた。
私たちの代は、身長の高い子がたくさんいるから、身長の低い子はそれなりのテクニックがないと試合にはなかなか出してもらえない。
私はと言うと、身長は低いワケじゃない。でも、高いワケでもない。つまりフツー。
テクニックといえば、「足を引っ張るコト」というくらいに下手クソな私は、試合に出れるコトはそうそうない。
「ねぇ美里。そういえばさ、澄七ってすごいよね」
どきっ。いや、いきなり話しかけられたからびっくりしたよ。
「え、すな？どうして？」
「だってさ、最初は私たちと同じダメっ子だったのに、いつの間にか控えの中で一番に交代してもらえるようになったし。…上手くなったよね」
「そ、そだね」
「ん〜でもー…」
「？」
「やっぱし、目の保養とはいかないね」
「あ、あはははは」
この子は、ともちゃん。 旦維 朝ちゃん。
クラスは違うケド、同じ部活仲間で、仲良くしてもらってる。
今話題にしていたのは、あそこの男子たちの試合で、スタメンになれずにベンチに座っている、澄七　 春。
私や、友達が呼んでいるあだ名は“すな”。
簡単に言えば、友達。自分の中での立ち位置を正確にに言うなら、仲良くしてるケド、ライバル視しているヤツ、になる。
どうして、朝ちゃんが、「目の保養とはいかない」と言うのかというと、私の部活内にはイケメンさんが結構いるから。
もう引退してしまったケド、男子の先輩の、とくに背番号の4番5番6番だった3人の先輩で誰が好みか、というので女子の中では3つにファンが分かれている。わたしは、6番の瑞瀬先輩がカッコいいなあと思っている派閥の者である。
冷静に見れば、たぶんきっと、すなだって悪い見てくれなワケではないケド。
痩せてるかと言えば、ぽっちゃりぎみだし。
イケメンかと言えば、そうでもない。
でもそんなに悪いとは思わないんだケドなぁ…。いやいやいや、ライバルだと思ってるヤツをかばうような考えをわざわざしなくたっていいじゃない。そうよ、すなは、あれよ、“レベルが低い”っていうんだから。

ピ―――――ッ

「あっ！」
「こうたーい、青！」
…こ、交代してる！すなめ、羨ましい！悔しい！！
「先輩！」
「え？あっ、はい！」
「次の試合のスタメン聞いてくるので、あっちに行ってきますね」
「ありがとう！！いってらっしゃーい」
未だに慣れないよ、“先輩”って呼ばれるの。
わたしは、ただ今中学2年生で、バスケットボール部所属。もう“先輩”になってゆうに2学期分以上も経っているのに、先輩と呼ばれると気恥ずかしい。
中2と言っても、あと1・2ヶ月すれば先輩は卒業して、私は中学3年生になる。
つまり、いまは、先に不安を感じる冬なわけでして。
「もうすぐ先輩、卒業しちゃうのかぁ…」
「そうだね。でもさ、美里、とりあえず今はちゃんと目の前の男子の試合に集中しよ。大丈夫だよ、いまだって先輩が部活にいてくれるわけじゃないし。精一杯見送ろうよ」
「うん、そうだね！」
「ぷっ、美里が変なこというから私まで神妙な気持ちになっちゃったじゃん」
「あらごめんなさいね、ともちゃん」
わたしとともちゃんは、お互い顔を見合わせて笑った。



「ただいまー」
「おかえり、お姉ちゃん」
「疲れた――、試合の道具重いんだもん。何か食べるものない？！お腹空いたよ」
「冷蔵庫にショートケーキあるよ」
「ほんと？わーい、やったーっ！」
思わず、こぶしを挙げてガッツポーズをする。
「そろそろ私、塾の時間だから…」
「はいはい。いってらっしゃい」

ガチャッと、先ほど自分がくぐったドアを開けて出掛けていく音を背に、わたしは冷蔵庫からケーキを取り出した。疲れた身体には甘いモノ！まずは腹を満たさねば。
「んー、おいしー！」
さっきのは、私の妹の琴里。
今年、中学受験をするんだって。日夜、勉強、勉強、勉強勉強勉強…。ほんとに頑張ってる。
…そういえば、私ももうすぐ受験生になるのか…。ああ、せっかくおいしいモノを食べているのに、気分が重くなっちゃう！
勉強は、してなくはないというかまぁ、一応塾には行ってるし。
明日も練習試合だから、早く夕飯食べて、お風呂に入って寝なくっちゃっ…っと、ああ、寝る前に、筋トレとストレッチと、あと、歌うことを忘れてはいけない。
その日の気分によって違うケド、必ず何か歌っている。
バスケも好きだケド、歌うコトも好きだから。ストレス発散ってヤツね。
絵を描くコトや詩を考えるのも好き。好きなコトがいっぱいの今を手放したくない。
そう思える今のわたしは、すごく幸せなんじゃないかと思う。





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