時折、なびく 第2話 〜月曜日の日〜


「のんちゃん、おはよー!」
「あ、はるっ!おはよ」
私の大親友の弓珱 埜乃佳 コト、のんちゃん。とってもおとなっぽくてやさしいんだよ!
一人の男の子がわたしたちに近づいてきているコトに、二人して気づき、彼に笑いかけた。
「あ、鳴村 !おはよっ」
「よーっす」
こっちは鳴村 有城。 すなと仲がいいの。
女の子みたいにちっちゃくてかわいい顔をしているのですよ。うらやましい…。でも鳴村は、かわいいって言葉は嫌いみたい。
キーンコーンカーンコーン。頭の上で定番の音を聞いた。
みんな、その音には敏感で、すぐに反応して、慌てて席に着く。わたしたち3人も急いで席に着いた。
3日前に担任になったばかりの、新任の谷之純玲先生は、もう生徒の名前を覚えている。
朝からクラスの生徒一人一人を名前で呼んで挨拶していたし、間違えていたら教えてね、と前置きして、席順に名前を呼んで出欠確認をしたのだ。
確認の意味でそうしたのだろうケド、誰のコトも間違えなかった。
純玲先生すごいなあ。わたしは、人の名前を覚えるのが苦手なのに。
みんなの顔見たの、金曜だけなのに。欠席がいなかったから顔は見れただろうケド、それでも覚えるのは大変そうなのにな。
わたしは驚きで口をぽっかり開けていたようだ。こっそり見ていたらしいのんちゃんにからかわれた。

1時間目は理科。HRのあと、みんなは第2理科室へと移動し始める。
「はる…。どうして月曜日の理科だけはこんなに早く移動してくれるのかな?」
のんちゃんがが不思議そうにたずねてきた。
「え、早い?そんなコトないよ。気のせい、気のせい!」
顔の前で手を振って、笑いながら答える。
そんなわたしをのんちゃんは、疑わしげな目で見たかと思うと、「そっか」とひとことつぶやいただけだった。

第2理科室



「…そしてどうしていつもココで立ち止まるのかな?」
「わっ、びっくりした」
「何言ってるのよ、いつもココで立ち止まって呆けるのは構わないけど、置いてっちゃうよ」
目の前には第2理科室の教室の壁があり、目指すべき第1理科室は、この廊下をもう数歩だけ歩いた隣の教室。
ううむ、だって今日は、
「ほら、チャイム鳴るよ」
のんちゃんに急かされ、慌てて教室に入ると、適当な席を見つけて座った。
「せっかく早く来ても、教室の目の前で立ったまま動かなかったら、早く来る意味ないじゃん」
「ごめんね、のんちゃん。一人で行ってていいよ?」
「それ、先週も聞いた!で、断ったでしょ」
「はい」
「……」
のんちゃんはわたしの顔をジッと見つめてきた。あらやだ、恥ずかしいじゃない。
「あの人の名前、なんて言うの?」
「え?」
「3年生でしょ?あの人。バスケ部の先輩?」
「なんで分かっ…」
たの、が声にならない。のんちゃんあきれた顔で、種明かしをしてくれた。 「いっつも見てたから分かるよ。あの人と通りすがるときも見てたし。で?」
「はい…先輩です。部活の…」

そういうわけで、昼休みにのんちゃんに瑞瀬先輩について話すことに。
「あのね、あのね。瑞瀬先輩って言うんだケド、足速いし!!とってもカッコいいし!それでいて、ちょっぴりかわいいところもあって。バスケ上手いし!!すごくすごく優しいんだよ。女子とか男子とか後輩だとか差別しないで平等に接してくれるし気さくだし!!とってもとっても素敵なの!もう部活引退しちゃっているのに、時々部活に遊びに来てくれるし、現役の部員より上手くて、体力も現役組よりあるよ、あれは!もう、すごくすごくカッコよくって、引退する前から気になってたんだ。男子と女子って練習別々だからお話あんまりしたコトないんだケド、とってもとっても憧れてるの!でも尊敬している先輩・・・あ、名前は伏せるね・・・と付き合っているってウワサがあって。たぶん事実だと思う。その先輩のコトも本当に尊敬しているから、それでもいいなって思ってる。というか、二人が仲良くしていてくれたらなって思ってるの。あ、私、瑞瀬先輩と付き合いたいワケじゃないんだよ?なんかこう、遠くで見ていたいというか、なんというか、そんなカンジなの!」
わたしは恥ずかしいので、小さい声で早口に言ったためか、のんちゃんは聞き取るのが大変だったようだ。
「うざい」
と言われた。
「わ、分かったから。つまりは喋ってみたいと?なら、すなに頼んでみたら?」
「ええ?!そ…それはいいよ、ムリだよ!」
「じゃあ、このまま喋れなくてもいいの?」
「……うん」
「ふーん」



午後8時。晴れ。

「すなッ!」
「わりい」
「別に。私がこの寒さに耐え切れずに凍え死ぬだけだから」
「・・・すみません・・・・・」
殊勝なすなに、わたしが声を立てて笑うと、すなの口元が白くくもった。すなも笑ったみたい。
火・木・土は塾だから無理だケド、それ以外の晴れた夜の8時は、すなと一緒に走っている。
私はいつもマンションの下で、すなが来るのを待って。一緒に、走ってる。
「寒いし、よく晴れてるから星がよく見えるね」
ふと空を見上げて、空と星と自分の息のコントラストを楽しんでみる。
「そうだな。でも、星座とかよく分かんないし」
すなも顔を上に向ける。
「私も!オリオン座しか知んない」
「だよな、フツー。それに、“満天の星空”なんて、そうそう見れないもんだよな」
わたしはおもしろい気持ちになって、笑みを浮かべながら自慢げにいった。
「わたし、見たコトある」
「え、まじ!?」
「うん、マジ!おじいちゃんち、島なの。だからね、明かりが少ない分星が照明の代わりになるほどなんだよ。夏休みに行ったとき見たら、感動しちゃった!ちっちゃい星まで見えてて。街灯がないのに、ものすごく空が明るくて。また見たいな!!」
「島かあ。オレんトコ東京だもんなぁ…」
「ふふん!いいだろ!」
走りながらなので、両手を腰にあてて、ポーズをした。
「中学入ってからは部活で、帰省できてないや。おじいちゃんち行きたいな」
「オレは中学入ってからも、帰省してるぞ」
「部活休んで、ね」
「部活は病気や学校のこと意外で休むなという風潮のほうが苦手だけどな」
「運動部だから当然のコトだよ」

帰りが遅くなってはいけないと、5qでだいたい30分、二人で走って解散する。
「はあ、疲れた。喋ったりしなければ良かった。それじゃねっ!」
「ああ」
わたしは手を振りながら背を向け、すなと別れた。
「さてと。もういっちょ走りますか!!」
男の子は本当にズルい。
どんなに、同じ量の練習をこなしても、女子と男子じゃ、筋肉のつき方や成長のスピードが全然違う。
毎回、私の方が長い距離を走っている、と思うのに、すなの方が速くなっていく。悔しいよ。
すなと一緒に走ったあと、もう5q。わたしは走る。
それでも、差ができているのは分かっているケド、走らなくちゃ。負けたくないから。
「絶対負けないんだから!」
そのとき、風が吹いた。まとわりついていた汗を軽くはらってくれる。
その向かい風は、心地良く髪の毛をなびかせる。
「うう、冷えるケド気持ちいい」
走り出そうとして後ろに振り返ると、今度は追い風となって風が、背中を押してくれた。
これは走りやすい。ラッキー!
向かい風も追い風になれば、背中を押してくれる味方になってくれるみたい。






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