時折、なびく 第4話 〜勉強会日〜


中間テスト4日前の日曜日。テスト前なので、部活は午前中のみで終わった。
そこで、のんちゃんちで、二人で勉強会することになった。
「のんちゃん!江戸幕府っていつだっけ?」
「1603年」
「じゃ、酸化銅と炭素の反応の化学式は?」
「2CuO+C→2Cu+CO2
「わあ!のんちゃんすごーいっ」
「じゃなくて。はる、勉強してる? 塾行ってるんでしょ?」
「や、やってるよ!やってるケド、理社は苦手なんだもん」
「得意科目は?」
「えっ・・・」
「……」
のんちゃんの顔がこわいです。
「…えーっと。国語、かな」
「なんだ、体育って言うのかと思ったのに」
「うっそー、どうして?」
「部活ばかりやってるバスケバカだから」
「体育もバスケも好きだケド、得意かとかとは違うでしょ!私、運動神経ゼロだもん」
のんちゃんが、ああ〜と、納得した顔になる。 「めちゃめちゃ納得してるー!?」
「え、そんなことないけど?」
「鼻で笑いながら言〜う〜な〜」
「あはは。ほらほら、勉強しなきゃ。勉強」
「もう!」
のんちゃんが自身の目の前の教科書とノートに目を戻したので、わたしも塾からもらったプリントに意識を戻した。
のんちゃんの部屋のコタツは小さくて弱いから、そこまで暖かくはならない。教科書やプリントと一緒に置いてある、少し熱めのアールグレイの紅茶で、ちょうどいい体温に保たれている。
カリカリカリカリと、シャーペンの動く音が聞こえる。のんちゃんとわたしので、2本分の、書く音だ。
でも次第に音は少なくなっていって、しまいには紙の上を走るペンの音は、1本分だけ。
残っているのは、のんちゃんが黙々と、教科書の範囲をノートにまとめていく音。
わたしといえば、自分のシャーペンについている猫のキーホルダーを、ペンを軸にぐるぐる回している。
「はる。おい、はる。はる婆!」
「なんだね、のん婆よ」
「プリント終わったの?」
「…ううん」
「さっきからふざけてばっかりで、全然勉強やってないじゃん」
「だってー、全然分かんないんだもんー」
「はいはい。じゃ、おやつあげないっ」
「えっ」
「おやつは、勉強を頑張った人へのごほうびだもん。頑張ってない人はごほうびのおやつ無しなのは当然でしょ?」
「が、頑張るよ!!」
わたしはあわてて、ペンを持ち直し、またプリントに目を向けた。
ちゃんと暗記できているかはさておき。少しずつだケド、塾で配られたプリントの束の嵩が減っていった。



「そろそろ休憩しよっか!」
「わーい」
「ちょっと待っててね」
のんちゃんは、腰を上げて、部屋を出て行った。
手持無沙汰にマグカップに手を伸ばすと、カップの温度で、すでにすっかり飲みきっていたことに気づいた。
紅茶の入っていたカップは、何かを物欲しげに、ありったけの冷たさで訴えているように感じるようだった。
テストなんて嫌だなぁ。そりゃ、勉強も成績も大切だケドさ。まだ、2年生だし、部活の方をやってたいよ。
ガチャリ。と音を立てて、のんちゃんが戻ってきた。手にはお盆。
「あっ、何?」
「ふふっ、お母さん特製の出来立てほやほやチョコクッキー」
「やったーっ!のんちゃんのお母さんのクッキーおいしいんだもん!」
「ありがと。紅茶のお替わりも持ってきたから、ついでに飲んでね」
ほんわりと、白い湯気をあげて先ほどよりも幾分か甘い紅茶が、注がれる。
「紅茶とクッキーって、なんかセレブみたいだね」
「そう? 普通じゃん」
「そこがセレブなんだってば!手料理のお菓子なんてそうそう食べるコトなんてできないもん」
「お母さんは専業主婦だからね。はるのお母さんは働いてるんでしょ?」
「そりゃあそうだケド。んじゃ、いっただっきまーすっ」
パクッと一口。
「ん〜、おいしー!!」
「…ほんと。はるって目をキラッキラさせるよねー。考えてることが分かりやすいし」
「ん、なんか言った?食べないの?」
「いや、はるに味見してもらおうと思ってね」
「じゃ、全部毒見してあげるねっ」
「あっ、こら。私の分まで食べるな!」
フォークを向けた先のケーキが宙に浮き、わたしのフォークは空を掻いた。






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